11月2日から3日にかけて、東電が福島第1原発2号機で「キセノン検出と臨界の可能性」を発表し、臨界(=核分裂が連鎖的に起きる状態)をとめるホウ素を注入しました。
そのあくる日に原子力安全保安院が「自発核分裂(=自然に起きる核分裂)ではないか」と臨界を疑問視する発表をし、それを受けて東電が「やっぱり自発核分裂でした」という発表をして一旦締めくくりました。
この経緯がいかにも漫才のやり取りを聞いているようで、不謹慎ながらそういう光景を想像して思わず笑えましたが、話の次元が科学的すぎて、一般の人は検証するすべを持ちませんので、おそらく「ああそうか、でも胡散臭い」と思われた方は多いと思います。
ここではちょっと噛み砕いて説明します。
核分裂:例えばウラン235は中性子にぶつかって、ヨウ素135とイットリウム91に分裂し、中性子を数個放出します。あるいはクリプトン92とバリウム141に分裂して中性子を3個放出など、他にいくつかのパターンがあります。数字は原子核の陽子+中性子の数を表しますが、もともとウラン235は自然に分裂する速度は極めて遅く、半減期(自然に分裂してその数が半分になる期間)は7億年ですが、中性子を吸収すると分裂を始めます。
ヨウ素135の半減期は6時間半と短く、さらにその生成物であるキセノン135は同9時間と短いのにもかかわらず、最初の東電の報道のときキセノン135を1立法メートル当り10ベクレルも検出しました。
3.11により、短期間で2号機も含め原子炉内部では冷却不能に陥り、核燃料の大部分が溶けて、本来の燃料棒の形=ウラン235の周りをジルコニウムのケースに収めている状態をとどめなくなって、混然一体となってどろどろの状態(メルトダウン)になっていると見られています。ウラン235はそのままではあまり自発的に分裂しない物質ですが、中性子を当てるだけでとたんに手のつけられない暴れん坊になってしまいます。
つまり、分裂後にさらに複数の中性子を出すので、倍々で分裂が連鎖的に起こり、制御できない状態が核爆発です。
本来の原子炉で制御をするのは燃料棒の間に差し込んだ制御棒といわれるもので、これが連鎖反応の程度を制御しています。1の反応を1以下にすると自然に原子力の火が消えてしまい、1以上にすると先の連鎖反応が起きてとんでもないことになるので、うまくその間で調整し、運転を保っているのです。
それが制御できないと真っ先に心配するのは核爆発で、3月12日や14日15日に起きた1~4号機の爆発はそれが心配されたのですが、そのとき実際に起きたのは、高温の燃料棒により水から発生した大量の水素による爆発でした。(規模が格段に大きかった3号機は核爆発という説もあります。)
しかし混然一体となった燃料の塊というか液体みたいなもの中には、プルトニウムやストロンチウムなどいろいろな副生成物もまざっていて、そのなかに中性子を出す核種もあります。その中性子が引き金になって起きて連鎖反応が始まる事態が非常に重大であり、それを報道ではほとんど触れませんが、その可能性を一番心配しなくてはなりません。
その主たる痕跡がまさしくキセノンであります。
ウラン235に中性子があたり、分裂をしてヨウ素135、さらにキセノン135が発生するという核分裂がもっとも典型的であるので、東電はいち早く臨界=核分裂が連鎖的に起きる状態(最悪が核爆発)ではないかと心配して、珍しく隠蔽せずに発表しました。
ところが直後に原子力保安院がそれを否定しました。本来はそれを否定せず、「こういう可能性もある」と表現した方がもっともらしいのですが、神様のように否定しました。そんなに素早くわかるものなんですかね、ぐちゃぐちゃの核燃料ミックスなのに。しかもさまざまな核種があるのに、「キュリウムの自発核分裂が原因だ」と、ほぼ断定しました。キュリウムは自然には存在しない超ウラン元素で、元のウラン燃料が中性子を吸収したりベータ崩壊しながら生成しますが、割合としてはごく微量です。それより圧倒的に多い燃料主体ウラン235に、自発的に発生した中性子がぶつかり、先の反応でキセノンが発生したと考える方が自然です。
まあ、東電がその後、「実はキュリウムでした」と訂正した後、天の邪鬼のように保安院が「臨界の可能性も否定できない」と真逆のことを言って、まるで漫才のようでしたが、事が重大だけに笑ってはいられません。今後の分析を待つとのことになりました。
正直に言わない人たちなので、自分で調べないと不安です。とくに原子炉内はどうなっているか分からない状態なので、余計そうです。早く収束してほしいのですが、まだまだ先は長そうです。
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